技術士資格の歴史
1. はじめに
技術者を取り巻く環境は大きく変化しています。
与えられた目標を、早く安く実現させることだけが良い技術者の条件であった時代は終わりました。いまやろうとしている仕事が、企業にとって、社会にとって良いことなのかそうでないのかを、自分自身が考え、判断する事を求められるようになってきました。また、技術者としての身分も、年功序列の秩序が崩れ、終身雇用の保障も大きく揺らいでいます。これまでの会社一途の生き方ではなく、自分で自分のキャリアを設計する時代となってきました。
このような社会の変化、技術者としての生き方の変化に立ち向かおうとするとき、「技術士」という資格が、重要なキーワードとなります。
2. ターニングポイント、1999-2000年
・JCO臨界事故。
・山陽新幹線トンネル崩壊事故。
・H2ロケット打ち上げ失敗。
・地下鉄脱線衝突事故。
1999~2000年は、日本の科学技術の力に大きな疑問符が突きつけられた年として、記憶されることになるでしょう。
それぞれの事故について、原因、対策はさまざまに語られているのでここでは触れません。ただ、これらの事故に関連して、技術者に対してもっと自立せよとの主張がマスコミレベルで流されたことは重要な点だと思われます。例えば次のように。
「技術者は社会的責任を負う認識を持たなければならない」(朝日新聞、社説)
「倫理重視の技術士を」(読売新聞、論点)
技術的に最低限度守らなければならない基準すら守らずに仕事を進めてしまう、という荒廃した技術風土を根本的に改革するには、個々の技術者の意識のレベルにまで降りて変革しなければならないという強い危機感がこの指摘にあります。
そして技術者個人の意識のレベルを対象としようという考え方は、これまでの我が国の技術政策にはなかったことです。1999~2000年は、技術者の社会的責任が、個人としても問われるようになった年としても重要な年であったのです。
3. 21世紀の技術者
これからのあるべき技術者像を考えるとき、「APECエンジニア」というちょうど適当なモデルがあります。
「APECエンジニア」制度とは、APEC域内において技術者の共通資格を創設し、技術者の相互交流を発展させ、技術の発展と、域内経済の成長を目指そうというものです。
「APECエンジニア」とは次のような技術者を想定しています。
(1) 所定のエンジニアリング過程(一般的には理工系大学)を終了している
(2)自立した業務遂行能力を持つ
(3)7年以上の実務経験がある
(4)このうち2年以上、重要なエンジニアリング業務を、責任ある立場で実施した
(5)能力向上の努力を継続的に実施している
「APECエンジニア」制度が発足しようとしている事実は、次の新たな視点をわれわれ技術者に与えてくれるでしょう。
(1)これまでは企業の中での地位を向上させることが、唯一のステータス獲得の道であったが、これからは、日本(技術士)、APEC域内(APECエンジニア)、世界(EMFエンジニア)へと、新たな評価の道が生まれつつあること
(2)それに伴い、企業の看板を使ってしか活動ができなかった技術者が、個人の名前を看板とする活動が可能となりつつあること
(3)そして最終的には、技術者の能力評価にも世界標準の導入が近づきつつあること
4. 技術士は日本の技術者の代表となった
「APECエンジニア」には、我が国では技術士および1級建築士(構造分野)がなります。また「APECエンジニア」の事務局は日本技術士会内に設置されています。
「APECエンジニア」の定義は、技術士の定義に非常に近いものです。業務独占権を与えない一方で、非常に広範囲な活動分野を設定する。専門技術に関する非常に高度な能力を要求した上で、自立した業務遂行という高い倫理性を求めているなど共通の基盤に立った資格であるといえます。
すなわち技術士は、国際的に日本の技術者を代表する地位を獲得したのです。
5. 上昇し続ける人気
このような背景の中、技術士資格の人気が上昇し続けています。
次の【表1】をご覧下さい。技術士第一次試験は、大学JABEE課程修了者が免除されるため近年は減少傾向ですが技術士第二次試験受験者数が着実に増加し続けていることが分かります。
年度 | 技術士第二次試験 | 技術士第一次試験 |
---|---|---|
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 |
25597 31453 31499 30864 34299 34614 36432 |
55351 44511 40689 34150 29398 29874 27297 |
6. 技術士になろう
これまで述べてきたように、技術士は、時代の先頭を行く技術者資格です。そして、これから技術士に挑戦するためには技術士第一次試験に合格することが必要となります。若手技術者から、ベテラン技術者に至るまで挑戦の価値がある資格です。
自立した一流の技術者の称号を得るためにも、国際的に活躍する技術者となるためにも、いまの力のレベルを客観的に評価するためにも、技術士試験に挑戦しましょう。